第八話『決勝当日』
いよいよ、明日は本番!
いつも通りスタジオをレンタルして22時頃から最後の練習をしていた。
全員揃う事が少なかったから、この日は、「立ち位置」「組み技」などの調整で、
特に一体感を大切に練習した。
まだ完成していない組み技もあって、それがようやく完成した夜中の2時頃…
ヒロキの携帯がなった。
入院中のおじいちゃんが危篤だという知らせだった。
ヒロキは、おじいちゃんに残された時間はあとわずかで、
今会いに行かなければもう話しができなくなることを分かっていた。
僕は、ヒロキにとっておじいちゃんがどれほど大切な存在かも知っていたから、
ヒロキの動揺する姿を見て『早く行ってやれ!』と言おうとした。
…でも、リーダーとしてそれが今のチームにとってベストなのかを迷った。
時間にして、二~三秒だった。
『すぐに行くべきだよ!』
誰から言い出したか分からないくらい全員がほぼ同時にその気持ちを口にした。
このメンバーと踊れていることを、僕はこの上なく誇りに思った。
『こっちのことは何も考えなくていいから、まずはおじいちゃんのことだけを考えろ。』
僕はヒロキにそう伝えた。
そして、ヒロキがスタジオを出たあと
『ヒロキにとって、すごく大切なおじいちゃんなんだって。もしかしたらヒロキは、戻ってこれないかもしれない。だから、今から六人バージョンを作ろう。』と言った。
苦渋の選択だった。
しかし、誰一人不満も言わず、不安も出さずに、黙々と振付を作り直した。
もちろん三作品全て。
簡単な作業ではなかった。
でも、誰も諦めなかった。
朝の6時頃までかかった...…。
外はだいぶ明るくなってきた頃....
スタジオのドアが開き、ヒロキが入って来た。
『出ます』
確かそれが第一声だった。
病院についたときには、既におじいちゃんは永遠の眠りについていたそうだ。
ヒロキの声は悔しさや悲しみをおびていたが、目は凛としていたこと覚えている。
スタジオは壁一面がガラスだったから、朝日に照らされた床がとてもキレイに光っていたことも覚えている。
再び七人バージョンに戻して練習したときの、僕らの温かいエネルギーもハッキリと覚えている。
他のみんなは気がつかなったかもしれないが、六人バージョンで違和感を感じながら無理矢理テンションを上げていた練習の直後に、本来の七人に戻ったことが功を奏した!
これまでのチームワークと爆発力のリミッターがキレて、限界値を超えて完全にパワーアップしたチームになっていた。
僕はこのときの経験を活かし、今でもチーム練習に取り入れている。
練習中、敢えて一人ずつ外してバランスを狂わせたり戻したりすることで
空間の繋がりを肌で感じさせるのだ。
そして、練習中にヒロキが言った、
『おじいちゃんのお墓で優勝の報告をしたいです。』
と言う言葉に、僕らの肉体的披露はゼロと言っても良い状態に戻った。
恐らく朝の10時頃だったはず。
そして、FULL STOIC MOVERSは眠ることなく、
しかし完全なる状態で聖地ダイヤモンドホールに向かった。
SATOSHI

右がヒロキ、左が僕、下がカズマです。